そう、あれは2011年5月15日、胆振線跡を歩いていた時のことでした。
森の中を進んでいて景色が晴れたと思ったらそこは高圧送電線の巡回路でした。そしてこの景色の中に小さく気になるものがあるのを僕の目は見逃しませんでした。
サムネイルで見るとH型の柱が立っているだけに見えるでしょう。でも反応してるんですよ、僕の吊橋アンテナがビンビンとね!
柱の間に鋼索が3本張られているじゃあないですか。上の2本を手の支えにし、下の1本に体重をかけ渡る吊橋。厳密には吊橋ではなく吊床版橋に近いものです。
このワイヤクリップの適当さ加減。本当に体重掛けても大丈夫か?
仮に大丈夫でも踏み場所細すぎて怖い。無理です。僕には渡れません。胆振線に戻ります。
―― 百万年後 ――
これまでいくつも吊橋渡ってきましたが、怖くて渡れなかったのはこれが初めて。このまま例外を許しては吊橋好きの名が廃ると思い再び挑戦しにやってきました。ブツは西札幌変電所から室蘭変電所を結ぶ北海道電力の高圧送電線室蘭西幹線、伊達市大滝区の165-1号柱と166号柱の間の巡回路にあり、オロウェン支線川を渡っています。今目の前にあるのは165-1号。このまま巡回路に従って歩けば例の吊橋に前回とは逆側からアプローチできます。
サムネイルで見るとやっぱりただ柱が立ってるだけに見えるでしょ。でもちゃんと索が張られていますから。今どき登山道でもねーよ、っていうぐらいのチャチな吊橋が。
索の直径は10mm。つまりこの吊橋の有効幅員は0.01m。そんな細い橋聞いたこと無いよ。カイジもびっくりだね。
主塔は古電柱の再利用で、スタート地点に立つにはまずこの足場ボルトを登ります。
なお今回はシュリンゲとカラビナで作った簡易安全帯を使って、頭はヘルメットで防備しています。チキンと言われようが腰抜け野郎と言われようが、怖いものは怖いの。
目測20m、いざ行かん。手にめいいっぱい力を込めて3点支持で1歩ずつ進みます。膝はガックガク。生クリーム入りボトルを膝にくくりつけておけば向こう岸につくころには立派なバターが出来てるだろうなというガクガクぶり。まだ川の上まで出てないのに。それでいざ足を踏み出してみて分かったんですけど、左側の索はユルユルで全然当てに出来ません。なので右の索だけに必死にしがみ付いて渡ります。でも右だってピンと張られてる訳じゃないから揺れる揺れる。力の入れ方間違えるとマトリックスの銃弾よける時みたいな体勢になってあっぶない。
ついに川の上。まだ川の上。靴を見ればその人のファッションセンスが分かるって言うけど、その理屈だと僕のファッションセンス全くなしになっちゃうね。合ってるけど。そんなことよりこえ~よ~。川面まで3mぐらいしかないから別に落ちても大事にはならないだろうけど怖いんだよう。橋を渡っているというより完全に綱渡りしてる絵面だね。
吊橋から見たオロウェン支線川。なにもこんな小さな川渡るためにこんな怖いもの架けなくてもいいのに。送電線の巡回路ってことは北電の人はここを機材背負って渡るんでしょ?やっぱり川歩いたほうが安全だって。ここ担当の社員さん無理しないで長靴持っておいで。
振り返ると吊橋と165-1号柱。なんか大人の階段を1段登れた気がしました。
胆振線跡まで登って来ました。あの日見たあの景色。今日まで変わらず送電線も吊橋もそのまま。
せっかくなので166号柱まで来てみました。高所の恐怖から解放された今気づく重大なこと。またあの吊橋渡って帰らなきゃいけないんだ。と絶望に打ちひしがれる僕でした。