(北海道の)冷水峠旧道

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小樽市から積丹半島へ向かう途中、余市町から道道に乗り南に走ると赤井川村という村があります。人口わずか1200ほどのこの村の中心部は赤井川カルデラと余市川カルデラの二重カルデラの中にあり、外界と隔絶された桃源郷という感じ。


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しかし内側のカルデラは南側が開け外側のカルデラは北側が開けるという面倒くさい地形のせいで、住人は村外に出るとき大体山越えをせねばなりません。余市町には冷水峠、小樽市には毛無峠・小樽峠・山梨道路、倶知安町には樺立トンネル、岩内町には稲穂峠、仁木町には区画峠。


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そんな数ある山越えルートのうち余市に至る冷水峠の旧道たちを今日走ってきました。
この道は1887(明治20)年頃に人が通い始めて開かれた峠といいます。明治時代の地形図には上の画像のどれとも違う線形の道が描かれており、旧旧旧旧道というべきこれが初めての冷水峠と思われます。これは今回歩いてないので地図に載せませんでしたが線形が気になって夜も眠れない方はこれでも見といてください。1894(明治27)年余市運上家の林長左エ門らが赤井川に入植しこれにより1897(明治30)年頃冷や水峠は駄馬が通れるものになりました。
画像内に赤色で描いた旧旧旧道は上に書いた「駄馬が通れる」道なのかどうか分かりませんが、少なくとも1913(大正2)年発行の地図には既に登場しています。正直に峠をまっすぐ登り下りしていた旧旧旧旧道からつづら折りの旧旧旧道になっているというのが交通手段が徒歩からチェンジしましたって感じしますね。
次世代の道となる橙色の旧旧道の登場は1931(昭和6)年。これより前は冷水峠含め赤井川カルデラ外に通ずる道はすべて重要度が低い道、いわゆる赤線でした。しかし旧旧道の時代は余市から冷水峠を越えカルデラを縦貫する道だけが準地方費道(今で言う一般道道、路線認定は1944(昭和19)年11月25日)となり、他の道は別ルートに切り替わるか廃れていきました。この時代は赤井川カルデラ内からヘアピンカーブがなるなり外輪山をトラバース的に登っていく感じになりました。
旧旧道から旧道になった年は特定できませんでしたが、地図を漁ってみたら1967(昭和42)年頃のようです。戦時中に荒れ放題となった各地の道路が取り急ぎ改良されていった戦後の北海道、その中で取り残されたかのように冷水峠の線形改良は戦後22年を経た後でした。赤井川村民にとっては大動脈のような道なのに広い目で見たら相当優先度が低かったんでしょう。この変更によって赤井川カルデラ内に再びヘアピンカーブが復活しました。


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出発地は赤井川カルデラのど真ん中。カルデラを縦貫する北海道道36号余市赤井川線の両側に家々や公共施設があり村の中心をなしている場所です。この道を北に行けば冷水峠。村内唯一の小売店セイコーマートで飲み水をゲットし峠に向かいます。


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出発から5分も経っていないのに市街地から抜け建物がまばらになってきました。
赤井川カルデラ内は変則的な方形に区画され、一部これに反して敷かれた道は峠に向かう道です。この地点で左折すると旧旧道に入りますがここは直進してまずは旧道を目指します。どちらの道も区画に反する道ですね。


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山並みが近づいてきていよいよ峠に向け登り坂に入りました。正面50キロ制限の標識の左上辺り、尾根が一番低くなっているなだらかな鞍部が目指す冷水峠です。


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峠前最後の人家を過ぎたところで現道と旧道が分岐します。また右折で旧旧旧道に入れます。上で「旧道を目指します」と言いましたが、ここは旧道に入らずとりあえず道なり。


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写真手前が峠側。現道は築堤でますます登り、その横で旧道は寸断されてしまいます。これが旧道に入らなかった理由でした。旧道には「異常気象時には通行止めになります」みたいな標識とゲートが残っています。舗装をきれいに剥がして砂利置き場として使っているみたいなのに、ゲートを残していたら邪魔でしょう。


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旧道は現道の築堤のために完全に消滅していますが、築堤の中を交差して外輪山に沿う線形を取ります。現道と旧道は中学数学で言う「ねじれの位置」っぽい関係になっています。


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現道は外輪山に突っ込み、冷水峠の真下を冷水トンネルで貫通します。冷水トンネルの開通は今年2012年2月20日でしたが、旧道との分岐からここまでは昨年中(2011年)に供用を開始しています。旧道の冷水峠に至るには左ここで左折。やっとこさ旧道に入ってきますよ。


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旧道という肩書きに似合わず、現道と遜色ない立派な2車線道路。この春までバリバリ生活道路だったんだから当たり前ですね。


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冷水峠は余市側に連続ヘアピンカーブがありますが、こちら赤井川側にもこの1箇所のヘアピンがあります。しかもカーブの途中に交差点を設ける不親切設計。ここが現役だった時は交差点を曲がる車も多く何度かヒヤリハットに出くわしていたので冷水トンネルの開通万々歳です。


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交差点を過ぎれば旧旧道と旧道は重複する箇所が多く、そうでない箇所は旧道のほうに切土が施されています。ここの切土で右に小さな旧旧道があるので入ってみます。


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はじめ軽く藪って後には不法投棄。中には明らかに事業者だろっていうゴミも混じっています。日本で最も美しい村に何てことするんだ!


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旧道に戻り坂を上るやっつけ作業を続けると上り坂はあそこで終わり。


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峠まで残りわずかになり上り勾配はほぼなくなりました。写真奥の左カーブを曲がると冷水峠。その前に右に設けられた駐車場に寄り道します。


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ここからは赤井川カルデラのほぼ全部を見渡せます。山とか峠とか高いところに来たら見晴らしが良いと達成感があるし、今までのルートを振り返れたり、どこに何があるか見たり面白いすね。 宮本常一著『民族学の旅』では旅の心得として「新しく訪ねていったところは必らず高いところへ登って見よ」と述べていますが、赤井川村の場合はここ以上にぴったりな場所はありません。僕が滞在した数分間に5人もの人が訪れ村を一望していきました。


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ちなみに赤井川村のカントリーサインはここら辺から見た村の風景を図案化したものだと思われます。余市方向から来た人たちはこのカントリーサインを見た直後にほぼおんなじ風景を自分の目で見ることになるんですね。


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駐車場を出てカーブを曲がると冷水峠の頂上。右からは旧旧旧道が合流。旧旧旧道には後で入って見ますので旧道を余市に向かって下ろうと思います。


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赤井川村と余市町を結ぶこの道ですが峠を越えると仁木町に入り、下りの途中で余市町に入ります。あまりにも仁木町の区間が短く自重しているのか仁木町のカントリーサインはありません。


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冷水峠の余市側は登坂斜線が設けられる程の胸突き八丁もさることながら、ヘアピンが連続する紆余曲折っぷりも相まってこれぞ峠道という感じの道路。


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ヘアピン曲がればまたヘアピン。こんな道が半年前まで現道として活躍し、赤井川村民が余市町まで買い物に出るための生活道路でした。たぶん赤井川村民の運転技術は某豆腐店並み。


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田舎では用水路にトマトが流れてきたり道端にジャガイモが散乱してたりということがしょっちゅうですが、思っていた通りここも田舎という部類に入るみたいです。夏の雰囲気がいいですね。


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次のカーブが見えてきました。この道が現道の時代は車でよく通っていて、今回新たに発見することは無いだろうと思っていましたが、旧版地形図を拝見するとあのカーブには旧旧道があるようなので入ってみます。


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車だと急カーブに気が行って気づけないのも当然。でも自転車でゆっくり探訪してても知らなければ全然分かりません。


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森と笹藪を一直線に切り裂く1車線幅の道の跡が分かります。


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旧旧道を進むこと100m足らず、旧旧道は現道冷水トンネルによって儚くぶった切られてしまいました。


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たぶんこういう感じでヘアピンカーブがあったんでしょうね。ということで旧道に戻ります。


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で、旧旧道から付け替えた旧道もヘアピンかい!(角度は90°くらいなので厳密には違います)


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ヘアピンの先には冷水峠特産品のヘアピン。あのヘアピンから先が余市町域です。


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余市町はカントリーサインを掲げているのに反対の仁木町は小さい白看ひとつで控えめアピール。謙虚です。このブログも仁木町ぐらい謙虚にやっていきたいと思います。


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旧道の出口に着きました。


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合流地点から現道赤井川方向。トンネル手前に置かれたバス停は誰が使うんでしょう。このバス停で降りただけで不審者として通報されそうです。
この下、余市側には大きな旧道が無いのでカルデラに戻って旧旧道のほうに行きます。ワープ!


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冷水峠赤井川側の麓で現道から分岐する旧旧道に入っていきます。ここは今日2枚目の写真の場所です。


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さっき走ってきた旧道はリタイアから間もないのできれいなのは十分納得いく話ですが、こっちの旧旧道までこんなにきれいにしてもらっています。


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勾配はきつくド正面に冷水峠頂上が見えます。僕を追い越してく車は皆キックダウンし、下ってくる車は皆エンブレ音を轟かせていきます。


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左に見えたゴルフ場。平日とはいえ客が全くいなくてやっていけるんですか?


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前方に丁字路が見えてきました。


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旧道のヘアピンにぶつかり旧道はこれで終了。峠まではほぼ旧道と同じです。


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冷水峠から旧道を赤井川側に下る途中この交差点を予告する青看がありますが、この交差点はどっちに行っても赤井側市街でどっちに行っても小樽。旧道が現役だった頃は、勾配と距離がトレードオフになっているこの2本の道を使う人は五分五分だった感があります。


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今日2度目のワープ。最後に旧旧旧道に赤井川側の麓から入っていきます。場所は今日4枚目の写真の所。


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さすがに旧旧旧道となると今までほどのきれいさは期待できません。


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舗装が途切れると同時に冷水峠開戦。初見だとちょっと引くくらい緑の面積が多い道です。


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轍はありますが両脇からの草の張り出しがひどく人の行き来は感じられません。5年前に通った時は車でも問題なく通れる村道だったのにいつの間にこんなことに。


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そんな旧旧旧道には電線が引かれています。ここが現道の頃に敷設して現在まで続いているのでしょう。


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冷水峠名物ヘアピンカーブいただきました!こんなカーブを数回繰り返し代わり映えしない森の中を進んでいると、漫画やアニメでよくある「ここさっき通ったよね?」「まさか道に迷った?」という感覚に陥ります。


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でもまあ実際に1本道で迷うはずも無く無事にダンジョンをクリアしました。村道にぶつかり丁字路になっていますが、かつてはヘアピンカーブだったんでしょう。


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道は現役バリバリの砂利道になり、峠まで一直線。


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冷水峠で旧道に合流しました。トンネルを通る現道以外の冷水峠はすべてこの一点を通過します。


峠道の改良のため戦後間もなくから赤井川村議会が運動を起こし署名活動や陳情を行ってきました。成果が実り1世紀以上赤井川と余市を分けてきたこの玄関口は、2012(平成24)年2月20日に開通した冷水トンネルに正面玄関の座を譲り同日を以って冬季閉鎖に。トンネル化により4.5kmの峠越えは2.6kmに短縮され、最大傾斜も7.6%から2.9%へと緩やかになり、かつての事故や通行止めの不安がある急カーブの道は安全に生まれ変わりました。赤井川村にとって近くて遠い町だった余市町はもはや隣町。これでセーコマ以外でも買い物が出来るね!

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主要地点の地図

参考文献

  • 赤井川村教育委員会(編集)、『赤井川村史』、赤井川村、2004年
  • 『北海道新聞』、2010-10-15小樽後志版朝刊26面、「掘削進む冷水トンネル 高まる期待実感」

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  • 2016-01-02 リンク切れ修正

コメント

  • 当宮奏
    2020-09-24T11:59+09:00(JST)

    道がなくなりさみしいです