室蘭港周辺あんな所こんな所

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北海道が誇る東日本最大の吊橋「白鳥大橋」と、鉄の町室蘭の輸送を支える物流拠点「室蘭港」。この二つを見学会でじっくり見てきました。


昨夜は本降りの雨が降り続き見学会を危惧していましたが蓋をあければかんかん照りの青空に積雲浮かぶ夏らしい日和。過去20年くらいの天気を調べてみると今日8月6日は室蘭にとって雨の降りにくい特異日であったようです。ヤッタネ!


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まずは白鳥大橋。白鳥大橋といえば内浦湾に突き出た絵鞆半島先端に架かる国道37号の吊橋。半島による行き詰まりの状態を解消し環状の交通網を実現すべく築かれたもので、構想の始まりは戦後間もない1951(昭和26)年に遡ります。この年北海道開発局が発足しその下に置かれた室蘭開発建設部の部長として一人の男がやってきました。後の北海道開発局局長、北海道開発庁事務次官の猪瀬寧雄です。彼は一人心の内で巨大な橋を架ける構想を温めていたのを、どこで聞きつけたか新聞社の耳に入ることなり、1955(昭和30)年正月の記事に載ることとなります。この記事は反響を呼び期成会や研究会の発足や陳情活動により、1981(昭和56)年ついに国道37号バイパス白鳥新道の一部として事業がスタートしました。設計や風洞実験等の後1985(昭和60)年に工事が着工、約14年の年月を経て1998(平成10)年6月13日に白鳥大橋の開通を迎えました。その白鳥大橋、祝津側(絵鞆半島側)の主塔と補剛桁の内部に入れるというのが今日の見学会。


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自動車専用道路で駐停車禁止な白鳥大橋上で送迎の車が止まり、路面に足を着きました。普段はやっちゃいけないことをやっちゃうワクワク感。今日は特別なのでマネしないでね。CCTVとスピーカーがついているのでマネしたらすぐ注意の声が飛んでくると思いますが。主塔の下辺り、高欄の切れ目に設けられた扉から外側に出ると主塔と補剛の入り口があります。


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いかにも一般向けじゃないですよっていう形の入り口から垂直なはしごを降りて補剛桁の中に入っていきます。


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狭い入り口から2mほどの足の下。箱桁なので中は部屋のような空間が広がっています。床は道路中央に向かって下がっていて最大で高さ2.5mほど。幅5.5m弱。悔しいけどうちのアパートより広い。トイレ付けてくれれば僕普通にここ住めますよ。住んであげましょうか?そんな遠慮しなくていいんですよ。


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こんな部屋が無数に並んでいます。全部点検しろなんて言われた日には補剛桁の中で失踪するわ。


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さて問題。ここはどこでしょう。まだ白鳥大橋ですが、補剛桁ではありません。


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正解は主塔の水平材の中でした。補剛桁を出てから主塔に入りエレベータで上から2番目の水平材の中に。1本の主塔が持つ2本の柱のうち、1本はエレベータ、もう1本には約500段の階段があるそうです。今日は行きも帰りもエレベータだけでしたが、階段というのも良かったかもしれませんね。身をもって橋の大きさを知るみたいな。


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エレベータを降りて、階段を数段上がり、潜水艦みたいな出口からニョキッと出ればそこは天空のバルコニー。


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左が陣屋(北)側、右が祝津(南)側。飛び立ちたくなる広い風景ですね。路面からの高さ約40m、水面から約100m。飛び立ったら永遠に地上へは戻ってこれません。


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陣屋側にはJX日鉱日石エネルギー(旧新日本石油精製)の室蘭製油所が領土を構え、今日もせっせと油を作っています。室蘭市のエネオスが安いのはこの立地のおかげでしょうね。


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祝津側の袂には貯炭を行うコールセンター。奥には道の駅、パークゴルフ場、温泉、水族館、船着場など公共的な施設が多く設けられています。かつて2基あった風車は落雷被害で1基撤去されちゃったんですね。コールセンターにあったサーキットも知らない間に無くなっちゃってました。


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同じ陣屋側でも視線を左に動かすと、入り組んだ埠頭が連続しクレーンや工場らしき建物が見えます。


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橋から降りてトイレ休憩したら、今度は船に乗って大海へ繰り出します。乗る船は港湾業務艇「みさご」。主に工事の監督やパトロールで使う船だそうです。小さい船ですが、こう見えて25人乗り。この船に乗り白鳥大橋の名前が出た白鳥湾を反時計回りに一周します。


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室蘭港湾事務所近くを出発してまず見えてきたのは函館どつく室蘭製作所。道路を走っていると見えるクレーンは大体函館どつくのものです。そして函館どつくが面する函館どつく埠頭は函館どつくの函館どつくによる函館どつくのための埠頭です。後ろに見える鍋島山は室蘭港の隠れ展望スポット。


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次に見えてきたのは楢崎造船。お隣函館どつくは比較的大型の船を作る一方こちら楢崎造船は小型船を手がける会社です。2009年に函館どつくに併合され、現在は「函館どつく室蘭製作所小型船舶部門」となっています。ここの楢崎埠頭も社有のマイ埠頭です。


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西埠頭(西1~3号埠頭)は金属スクラップや倉庫群が立ち並ぶ公共の埠頭。端っこのほうには東日本大震災の支援で活躍した広域防災フロートが係留されています。


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次は中央埠頭。こちらも公共の埠頭ですが、先ほどと違って海保や道警やタグボートなど船自体が公共なものが多く留まっています。一部が一般に開放されているので釣り人も多いです。また室蘭港に不定期の旅客船が来るときは中央埠頭の旅客船バースに着くことが多いです。


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室蘭港の一番奥まったところ。かつて広い室蘭駅の構内と貯炭に割かれていたスペースに埋立地をあわせた広い土地に造られたのはエラいビル群。この企画を催してくれた北海道開発局室蘭開発建設部もあの中にあります。


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隣にあるフェリー埠頭。室蘭-青森間のフェリーが廃止されてからもう3年半になりますか。青森行きのフェリーは夜乗って寝て起きれば、早朝に青森に着いて観光に便利だったのに。復活してくれないかねぇ。かつては青森のほかにも大洗や直江津、博多行きも出ていたらしいですが、今ではここを発着のフェリーは皆無。だから無用の長物なのかと問われればそうでもないようで、大震災が発生しても使えるように耐震化されてるそうです。備えあれば憂いなしってね。


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お隣、クレーンや風車があるのは、鉄の町室蘭でクロガネを産する双璧のひとつ、日本製鋼所室蘭製作所。室蘭港に面する埠頭はもちろん専用埠頭。白鳥大橋にもここで作った部品が使われているそうです。


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直ぐ左には日通埠頭と御崎埠頭。日通埠頭は日通が使ってるんでしょうが、御崎埠頭は何に使ってるんでしょうね。専用埠頭のようですが。


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大好評建設中の建物はJESCO北海道事業所。かつて優秀な絶縁物質として色んな強電機器に使われていたPCBという物質。今では猛毒として製造が禁止されましたが、廃棄されたPCBはこの処理施設で無害化されます。建設中なのは増設部分でその奥に現在稼動中の本体があります。


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で、でたー!新日本製鐵室蘭製鐵所!なぜビックリしてるかって言うと敷地のデカイことデカイこと。その面積たるや東京ドーム175個分、室蘭市の10分の1を占めるデカさ。バチカン王国も18個入るよ!


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新日鉄の敷地に深く入り込む水域に面した新日鉄埠頭は奥が霞んで見える巨大な埠頭。ここだけで19のバースがあるそうです。うち2つは金属を雨に濡らさず積み下ろしするために、船が丸々1艘入れる建物を設けた「全天候バース」というものです。写真のずっと奥に写ってる緑っぽいやつです。タンカースッポリ収まっちゃうってどんだけ建物でかいのよ。その建物が豆粒に見えるってドンだけ埠頭でかいのよ。またここの埠頭は北海道で一番水深が深くそれだけ大きな船も入れるそうです。水深は16.5m、長さは300mでパナマックス級でも大丈夫。


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新日鉄埠頭の対岸は製鉄とは全く関係なさそうなばら荷置き場ですが、その向こうには煙突でお察しの通り新日鉄の工場があります。そして隣には新日鉄の関連会社である日鐵セメント。製鉄で出たスラグを利用してセメントを作ってるそうです。


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室蘭から伊達までの国道を走っていると左にフローティングドックやクレーン船が停泊する埠頭が見えますが、これは本輪西埠頭。室蘭港で数少ない土建の匂いを出す埠頭ですね。


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ガスや油のタンクが密集してると工業地帯らしさが出ますね。白鳥大橋の上からも見えてたJX日鉱日石エネルギーの室蘭製油所です。ここから各地へと燃料が運ばれていきます。船が着く埠頭は岸壁のバースではなくすべて接岸せずに積み下ろしが出来るドルフィン。室蘭港で扱う貨物の約6割がこの埠頭でやり取りされます。


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製油所は白鳥大橋の下を通って向こうまで途切れることなく続きます。舳先は白鳥大橋を向き、これから僕も橋の下を通ります。


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室蘭港に定期旅客船が無い昨今、レアなアングルで見る白鳥大橋のお腹。


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白鳥大橋を越えた側の製油所はタンクは少なくプラントがメインのようです。胆振で2番目に高い建築物という煙突は高さ180m。比較物が無いので凄さが伝わってきませんが、この高さはさっぽろテレビ塔の147.2mよりも高いんですよ。


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室蘭の工場夜景最大手を担うプラントは夜になるとこうなります。姉に聞いたんですがファイナルファンタジーのなんとかっていう所のモデルになったんだそうな。ホントかよ。


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製油所が切れると現れる崎守埠頭。貨物の埠頭ですが、白鳥大橋をくぐれない大型客船が入港するとここに着岸してることが多いです。


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今日はこんな変わった貨物も留置されていました。札沼線の電化により不要になった気動車たち。軌間が日本と同じミャンマーにドナドナされるそうです。


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コンテナを扱うのでキリンが立っています。左の砂山みたいなのは製紙工場で使われるウッドチップ。


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室蘭港の外に向かいます。左には絵鞆半島の先端、エンルム岬が見えます。「エンルム」はアイヌ語で「岬」を意味するので「エンルム岬」は「岬岬」になっちゃいますね。


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絵鞆半島の先端には大黒島があります。かつては水族館から観光船が出ていたそうですが、現在は全く離島。さらに上陸には市の許可が必要です。室蘭八景に数えられる大黒島の黒百合も見るのは大変そうです。


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港口灯浮標を過ぎれば室蘭港の外。内浦湾は北海道駒ヶ岳や有珠山が面し噴火湾とも呼ばれます。


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さっきまで港に居たのに今は断崖がどこまでも続きます。半島内側と外側の温度差が凄いですね。


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白い垂直な壁は銀屏風と呼ばれ室蘭八景のひとつです。本当に屏風状にそばだつ様は陸からはほとんど見ることができなく、こうやって船に乗った人だけが見れる特権の風景です。


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先へ進むと崖は赤っぽく且つ大きく割れるようになり、岩の性質が変わったようです。岩に開いた穴は「アフンルパロ」と言ってアイヌの人たちに地獄へ通じる穴と信じられていたそうです。


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船は再び港に入りました。でも室蘭港ではなく追直漁港です。追直漁港にはMランド人工島が築かれていて本島と橋で結ばれています。


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Mランドは漁業関連施設ですが、公園っぽく作られてイベントや釣りにも使えるように整備していくそうです。


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追直漁港は全国から漁船が来る第3種漁港という種類で、この日も九州かどこか遠方の船が入港していたそうです。


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工業地帯と景勝地が隣り合い、港では魚も工業製品もやり取りされる表情豊かな室蘭港周辺でした。

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主要地点の地図

参考文献

  • 室蘭開発建設部室蘭港湾事務所、『みなと まち』(「地域の方のための現場見学会」配布資料)、室蘭開発建設部室蘭港湾事務所、発行年不明
  • 室蘭開発建設部室蘭道路事務所、『白鳥大橋』(「地域の方のための現場見学会」配布資料)、室蘭開発建設部室蘭港湾事務所、2004年
  • 室蘭港湾事務所、『ポートウォッチング 室蘭港版』(「地域の方のための現場見学会」配布資料)、室蘭港湾事務所、発行年不明
  • 室蘭民報社、『特版 白鳥大橋1』、室蘭民報社、1992年
  • 室蘭民報社、『特版 白鳥大橋2』、室蘭民報社、1994年
  • 室蘭民報社、『特版 白鳥大橋3』、室蘭民報社、1996年
  • 室蘭民報社、『特版 白鳥大橋4 完成記念号』、室蘭民報社、1998年

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