本輪西駅-黄金駅間の旧線

室蘭本線は1892（明治25）年8月1日、北炭（当時は「北海道炭鉱汽船」ではなく「北海道炭鉱鉄道」という社名でした）が空知の石炭が集まる岩見沢村から積出港のある室蘭郡までを結ぶ室蘭線を建設したことに始まります。北炭室蘭線は1906（明治39）年10月1日国有化され路線名を室蘭本線に改めました。その後長万部村と室蘭市をつなぐ区間が加わります。この区間が無かった当時は函館市-札幌市間は屈曲多く勾配も急で雪も多い函館線1本に頼らざるを得ませんでした。そのため険難な区間を回避し比較的平坦な室蘭本線をつないで高速化を図るという考えが生まれたのです。1896（明治29）年5月14日、北海道鉄道敷設法によって国が建設するべき路線としていくつかの区間が指定されました。その中に室蘭本線はありませんでしたが1919（大正8）年3月24日に法律改正でついに長万部駅と輪西駅を結んで室蘭本線と函館本線を連絡する鉄道が加わります。両者の頭文字をとって長輪（おさわ）線と呼ばれるこの路線は1923（大正12）年12月10日に長輪西線と呼ばれる長万部駅-静狩駅間、1925（大正14）年8月20日に長輪東線と呼ばれる輪西駅（後に東輪西→東室蘭に改称）-伊達紋別駅間が開業。最後に1928（昭和3）年9月10日両線を繋ぐ静狩駅-伊達紋別駅間が開業し長輪線が完成しました。これで現在の室蘭本線の大枠が出来上がり、1931（昭和6）年4月1日には長輪線と室蘭本線が統合され新たな室蘭本線としてスタートを切りました。

1925（大正14）年に開業した長輪東線には輪西駅（現東室蘭駅）-本輪西駅-黄金蘂駅（現黄金駅）-稀府駅-伊達紋別駅の5駅が置かれました。このうち本輪西駅と黄金駅の間を切り抜きました。この区間の現在線は5本のトンネルで直線化が図られています。しかしその旧線、開業当時の線形はなぜだか地形の凹凸に合わせ無駄に曲がりくねっています。

なぜかというと海岸沿いの平地はすべて埋立地であり、この線が開通した当時はまだ埋め立てされておらず、当然地形に従うしかなかったのです。わずかに2本あるトンネルを除けば旧線はかつての海岸線を示しているというわけです。

シュタッ！地図の東端の本輪西駅に来ました。駅名標薄っ！そろそろ新しくしたほうがいいよ。

駅から輪西（東室蘭）方向を見ています。輪西駅は前述のように東輪西駅、東室蘭駅と名前を変え、位置も移動してたりまた話が長くなりそうなのでいつかまた別の機会に。本輪西駅付近は埋立地で開業時はほぼ埋め立てはされていませんでした。つまり初めは海の中を走っていました。築堤を海に盛っていたので写真の範囲は一面の海と1本の築堤があるだけでした。その築堤の終わりに本輪西駅がありました。当時は50mほど北に駅本屋があったということです。

本輪西駅から陣屋町駅方向へ歩き出すとすぐに踏切があります。名前は「栗林前踏切」。別に栗林さん家があるわけではありません。栗林商会という会社のことです。実は栗林商会の創業者栗林五朔は長輪線の建設に一役かっている方です。長輪線のルート選定時は起点を長万部とする現在の案と、倶知安とする胆振線に近い案の2案がありました。その内長万部起点に択一した立役者の一人が栗林さんだったのです。また時の首相原敬に直接掛け合い長輪東線の早期敷設を実現させました。しかもただの入り江だった本輪西を埋め立て埠頭を作り町の礎を築いたのも栗林さんです。他にも業績は多数あるのですが鉄道つながりでいうと登別温泉軌道を敷き登別温泉の開発もしました。

次に見えてきたのはJXエネルギー室蘭製造所の石油製品をタンク車に積み込む専用線。ちょっと前までは室蘭製油所だったので多くのタンク車で埋め尽くされたものですが、現在は石油生産を行っていないため全く使われていないみたいです。

室蘭本線は専用線の隣を通り本輪西跨線橋をくぐって国道の山側に出ます。本輪西跨線橋は1957（昭和32）年竣工で、それ以前は栗林踏切近くで平面交差していました。

それでようやくここから旧線が出てきました。現在線は複線ですが旧線は単線です。長輪線の完成によって函館本線から室蘭本線に幹線が移り、輸送量が増加したため1969（昭和44）年から順次複線化してゆきました。この複線化を期に黄金駅-本輪西駅間のグニャグニャした線形をまっすぐに改良したのです。

現在線はすかさずトンネルに入ります。旧線はここにはトンネルを作らず国道と斜面との間を通っていました。現在線のトンネル名は第2陣屋トンネル。延長1,063m。ちなみに長万部駅-東室蘭駅間は複線非電化ですが、すべてのトンネルの断面は電化に対応しています。第2陣屋トンネルを含む陣屋町駅-元輪西駅間は1978（昭和53）年9月19日に複線化が完成しました。一方黄金駅-陣屋町駅間は10年早い1968（昭和43）年9月19日に複線化されています。

旧線は若干の盛土となっておりその上を歩いてみましたが、あっという間に途切れて国道に飲み込まれました。

国道化した後の旧線は線路であったことをとても想像させません。

白鳥大橋の袂付近なんかは道路が入り乱れて線路の面影は皆無。

陣屋町の町が近づいてきてもやはり跡形も無くなっています。実は陣屋町は複線化工事と同時に土地区画整理事業が行われたため跡が残っているはずがないのです。

第2陣屋トンネルを抜けた所にある現在線の陣屋町駅です。付け替え前は現在の駅の隣辺りにありました。もとは信号場として1944（昭和19）年10月1日に設置され1953（昭和28）年7月15日に駅へと昇格。駅の目の前には砂浜があり夏は海水浴客が利用していたそうですが、現在は500m以上先まで埋め立てられ旅客駅としての価値を失いました。そして1970（昭和45）年8月1日をもって貨物専用駅となりました。

ここからは旧線がそのまま陣屋町駅の構内に組み込まれしばしの間昨日と同じになるので飛ばしめでいきます。陣屋町駅付近で現在線と旧線は接してまた離れます。そしてトンネル。右は現陣屋トンネル、延長300m。左は旧陣屋トンネル、延長841.50ft（≒256.49m）。

旧陣屋トンネルを抜けると外港1号踏切があります。ここからでは見えませんが右では現在線が陣屋トンネルを抜け第2崎守トンネルへ入っていっています。

その先は道路と並行。ここまで昨日と一緒。

昨日通った旧国道踏切の手前で旧線は旧線として分かれます。

この後は道路とほぼ被って、昨日散々歩いた陣屋町臨港駅を左に見ながら進みます。

崎守の町が見えてきたところで築堤が現れ登ってみましたが、50mほどで途切れていました。

往時はまだ築堤が続き、跨道橋を架け道路を越えていました。しかしこの先一切築堤は見えません。上に見えるは現在線の崎守橋。現在線と旧線が立体交差します。

立体交差の下には崎守町仮乗降場が置かれていました。この仮乗降場は1955（昭和30）年11月1日に設置され現在線に切り替わると共に廃止され崎守駅が新設されました。

仮乗降場からはいかにも廃線跡らしい細長い空き地が続き、どん詰まりにトンネルが穿たれています。元室蘭トンネル、延長2,174.30ft（≒662.73m）。現在線は元室蘭トンネル。旧線も元室蘭トンネル。開業時から元室蘭。「室蘭」という地名が発祥した地だから元がつくのでしょうね。このトンネル見ての通り密閉や埋め戻しではなくなにやら秘密基地的なものが作られています。